【日本のロックスター】THE YELLOW MONKEY 吉井和哉の音楽観を徹底分析

吉井和哉(以下「吉井さん」)。THE YELLOW MONKEY(以下イエモン)のボーカリスト兼ギタリスト。1992年のメジャーデビュー以来、その楽曲のほとんどの作詞・作曲を担当し、サイケデリックであり、ユーモラスであり、叙情的であり、ストレートでありとさまざまな表現力を巧みに操りつつも、自身の世界観を崩すことのない楽曲を作成し、今もなお聴く人全てを魅了し続けている、日本ロック史に名を刻むアーティストです。

2004年の同バンド解散後も「YOSHII LOVINSON」としてソロデビューを果たし精力的に音楽活動を展開し、その後「YOSHII LOVINSON」を「吉井和哉」に改め活動を継続、2016年に「THE YELLOW MONKEY」を再結成して、現在に至ります。

吉井さんの音楽観は、一言で表すことが出来ないほど深く幅が広いものですが、共通しているのは「優しさ」だと私は思います。どんなに攻撃的で妖艶で支離滅裂な楽曲でも、その中には自分の存在意義に迷いを抱えている人たちに「そのままでいいんだよ」と認めてくれる包容力を含んだメッセージを感じることができるからです。

これは、吉井さん自身がひたすら音楽と向き合い続けて、その時々の自分の人生を、等身大のまま楽曲へ投影し続けた結果であることが、どの曲を聴いていてもわかります。

そんな印象を受けたエピソードを1つ紹介します。

夫婦喧嘩から生まれた”BURN”

THE YELLOW MONKEY ? BURN -2022 Remaster- (Official Audio)

1997年7月24日に発売された、イエモン13枚目のシングル。当時のTBS系ドラマ「職員室」の主題歌で、イエモン初めての本格的なドラマタイアップソングです。ギター・ベースの解放弦にドラムのクラッシュシンバルの強振に合わせて、破滅的なギターリフが重なり、爆発しそうな感情を表現したイントロから始まる、イエモンを代表する珠玉のヒットナンバー。

イエモン史上もっとも売れた楽曲でCDシングル売上枚数66.7万枚と言う、驚異的な数字を記録しています。

そんな「BURN」ですが実は、夫婦喧嘩の後に台所で作ったそうです。当時吉井さんは奥さんといつも喧嘩を繰り返していたそうですが、内容は「女性とのお遊び」によるものでした。「帰りが遅いけど、どうせまた女と遊んでたんじゃないか」などと疑われる生活の中で昔を思い出して作ったそうです。

奥さんに平謝りした後に、台所で一服して「限りない喜びは遥か遠く」と言う伝説的な歌詞が出来たと語っています。聞く人みんなに伝わる切ない歌詞が、もとをたどると家庭内によくありそうな問題から産まれたと言う事実を聞くと、妙に親近感が沸きますが、それと同時に言葉の表現力の高さに驚かされますね。

そんな吉井さんの音楽ルーツは「歌謡曲」だそうで、小学校高学年の時には「由紀さおりさん」や「マギー・ミネンコ」など、妖艶さ(エロさ)を感じる曲を好んで聴いていたそうです。確かに映像と共に聴いてみると、吉井さんが影響を受けている部分がよくわかります。

Yoake No Scat (Short Version)

※動画には当時の映像は映っていません。

ロックへの覚醒

そして中学校3年生の時に「チープトリック」でロックと出会い「デヴィッド・ボウイ」の音楽性やヴィジュアルに惹かれ、当時70年代に流行っていたヘヴィーメタルではなく、アンダーグラウンドなグラムロックに傾倒していき、吉井さんの音楽観が固まっていったそうです。

David Bowie – Life On Mars? (Official Video)

本当に余談なのですが「デヴィッド・ボウイ」の魅力を音楽以外で堪能したいのならば「戦場のメリークリスマス」をぜひ見ていただきたいです。彼の存在なくしてこの映画が成立しなかったと言っていいほど(アメリカの有名な映画監督が同じようなことをコメントしています。)のインパクト。そうです、私も作中の坂本龍一さんのように彼に一目惚れしてしまいました・・・

【予告編】『戦場のメリークリスマス 4K修復版』

イエローモンキーの結成

デヴィッド・ボウイとの出会いから、吉井さんの音楽人生が徐々に始まっていくのですが、本格的にバンド活動を始めたのは18歳のころで、当時はベーシストとして演奏をしていました。そこから22歳の時にイエモンの前身となるバンドを結成し、25歳の時に現メンバーとなり、イエモンの伝説が始まるのでした。

イエモンの音楽性は、結成当初から変わらない「妖しさ」を基調として、吉井さんのその時々の試行錯誤した生き様を音楽に反映した結果で変化してると感じています。メジャーデビューアルバム「BUNCHED BIRTH」からは「暗黒感」セカンド「未公開のエクスペリエンス・ムービー」からは「ノスタルジック」サード「ジャガー・ハード・ペイン」からは「哀愁」4th「smile」からは「愛」と様々な印象を受けます。ファンの皆さんはいかがでしょうか?

私がリアルタイムでのめり込んだアルバム「FOUR SEASONS」は「青春」でした。タイトルナンバーの「FOUR SEASONS」のスローで激しくストレートで、創造力を感じるイントロから、吉井さんの「まず僕は壊す、退屈な人間はごめんだ。まるで思春期の少年のように、いじる喜び覚えたて胸が騒ぐのさ」の歌詞を聴いた時に、心を鷲掴みにされた記憶が今でも鮮明に残っています。

「男らしいとか女らしいとか そんな事どうでもいい 人間らしい君と」
「人様に迷惑とコーヒーをかけちゃいけない」
「大人は危険な動物だし 場合にはよっては人も殺すぜ」

名言満載の名曲です

【LIVE】Four Seasons -Kyocera Dome Osaka, 2020.2.11-

イエモンの代名詞「JAM」の誕生

「暗い部屋で一人 テレビはつけたまま 僕は震えている 何か始めようと」「JAM」と検索するとイエモンが出てくるほど、市民権を獲得したイエモンを代表する象徴的なナンバー。当時の社会問題や自然災害に対しての不安から生まれた曲で、曲中終盤の歌詞「君に逢いたくて」は、忙しくてあまり家に帰れないので触れ合うことができてない娘に対して書いたそうです。

しかもオリジナル音源に収められている歌は「ワンテイク」つまり、せーので歌って1発OKのもので、当時の吉井さんのテンションをリアルの表している最高の仕上がりで、「もう、この高揚感は出せない」とコメントしています。確かに何回聴いても胸が熱くなります。

周囲からは成功者として認識されていた時代でも、吉井さん本人はずっと何かと戦い続けていて、決して華やかな人生を歩んでいないようで、長いバンドの歴史の中でも「JAM」が出来てやっとホッとしたと語っています。

THE YELLOW MONKEY – JAM

バンドの終焉を示唆していた「SO YOUNG」

「今を生きるのは過去があったから、喚き散らして未来を探した」と言う歌詞に涙を流してしまうほど共感できる名曲。イエモンの後期に行われた、前代未聞113本の全国ツアー「パンチドランカー・ツアー」・フジロックでの海外アーティストとのレベルの差で感じた挫折感・吉井さんのプライベートでの混乱。公私共にカオス状態であった中で作成されたPVは、客観的に見れば素晴らしい作品でも、吉井さんの心は疲弊しきっていたと語っています。

作成当時の記憶をたどると、「なんでこの曲を作ったんだろ?」と吉井さん本人も不思議がっているのが印象的で、無意識的に節目を感じていたのでしょうか?

ですが「あの日僕らが信じたもの それは幻じゃない」で締めくくられるところが、吉井さんの根底にある「優しさ」を感じることができて、安心できます。

THE YELLOW MONKEY – SO YOUNG

そして活動休止・解散・ソロ活動へ

イエモンの活動休止後は「とにかく頭の中からイエローモンキーをなくしたかった」と吉井さんは語っています。「YOSHII LOVINSON」名義でのソロデビューアルバム「at the BLACK HOLE」は「俺がイエローモンキーをやめたのはこういう理由なんだ」というものを作る意気込みで作成されたそうです。

確かに「at the BLACK HOLE」はイエモン時代に感じることができなかった、吉井さんらしさを感じることができます。イエモン時代はメンバーの個性がそれぞれ融合されて、楽曲という1つの形が出来上がっていましたが、ソロになると全てが吉井さんの個性を反映していて、楽曲のヴァリエーションは豊かながらもぶれない統一感があります。

YOSHII LOVINSON – TALI

個人的には一曲目の「20GO」が好きです。このPVのオチが笑えますwww

YOSHII LOVINSON – 20 GO

「at the BLACK HOLE」を吉井さん本人がレビューした記事を引用すると

「女遊びもやめて、酒もやめて、家族のためにって・・・普通、それって「病気が治った」っていうと思うんですけど。ところが本来僕は、そういう人じゃないから無理やり倫理的なことを強いられると壊れちゃって、で、こんなアルバムができちゃって。

ものすごく病んでる・・・ある意味、正しく病んでる・・・そう、正しく病んでるの、「at the BLACK HOLE」は。健全な病み。」

こうコメントしていました。「倫理的なことを強いられると壊れちゃう」と言う言葉にアーティストとしての創作のひらめきは「型にハマるほど少なくなる」のだと自身の音楽人生と照らし合わせて妙に共感してしまいました。万年厨二病の私にとってこれほど励みになる言葉はありません(笑)

加えて、「at the BLACK HOLE」は核の部分、思想の部分では他の作品を超えることは一生ないかもしれない。と記しています。本当の吉井和哉を体感するにはマストなアルバムです。

そこからソロとして2015年まで精力的な活動をした後に、2016年はイエモンの再結成に至り、2020年には結成30周年の記念すべきツアーを行うなど、ソロ活動と並行してバンド活動も行っているので、「楽しみが二倍になった吉井和哉」の今後にますます目が離せません!

アーティストとして生きている中で、「自由」を求めつつも、「安心できる帰るべき場所」も求めてしまう。と言う相反する欲望を抑えきれずに自分の中に抱え込んだまま、解決策も分からず彷徨い続ける。その中で感じている心情を楽曲として投影する。

吉井さんが作る楽曲は決して幻想や憧れを表現している訳ではなく、日常で誰でも感じることがある「孤独感」「焦燥感」」「混沌」などを自身の経験から解釈しているので、心を打たれるのだと感じました。ただ、音楽はそんな辛さも変換して感動を聴く人に届ける力がある。

そして・・・

吉井和哉は日本で唯一無二のロックスター!これだけは揺るがない!

それでは。

参考・引用書籍〜吉井和哉自伝「失われた愛を求めて」〜

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